2016年5月22日日曜日

Schoenheit SH111-4 2nd Report

ショーンハイトを購入してほぼ5ヶ月経過。


この間だいたい週に1回くらい履いているので20回ちょっと履いた後の感想。

履き始めに柔らかい感じを受けたけれど、それはそのまま継続。不思議と痛くなるところがない靴。
いままで購入時キツ目の傾向があったのでたいていの靴は靴ずれしたりマメができることが多いのに、この靴はいまのところそういったことが無い。
足首に近い三の甲できっちり締めて、それより先の部分にゆとりがあるためなのか、ソールの反りが厚手の割には比較的柔らかいためなのか明らかに他の靴に比べてダメージが少ない。履き口が小さい分、全体的な緩さを感じないということもあるかもしれない。

何度か小雨に振られたり、濡れた路面を歩くことがあって気がついたのは、ショーンハイトのこのレザーソールは湿っていると結構滑る。特にソールにブートブラックのコンディショナーを塗った右足側は滑ることが多く、水分を含んだ状況で摩擦係数が少ない路面を歩くのは注意が必要かも。

アッパーのキップは意外にしわが綺麗に落ち着いてきた。
リーガルのW13xやRENDOに比べると明らかに繊細なしわが入るため、見た目だけで言えば質が高く感じる点は高評価。クリームはあまり多くは塗っていないので、表面の凹凸感は残るものの、単に「丈夫そう」だけではなく、しなやかさな感じも残っている。

この靴は左右でクリームを分けている。
左足のM.モゥブレイシュークリームジャーは極めてフラットな感じ。


買った時の状態に近い。
このクリームはワックスで仕上げることを前提にしているか、そもそも靴にあまりギラツキが必要ない(保革を重視)する人向けかな。

一方でブートブラックは評判通りギラツキ感が強く出るクリーム。


クリームを入れた直後は結構差がでる。
しばらく履いて乾拭きだけを繰り返すと、やや光沢という観点では落ちてくるものの、様々なワックスを入れて光らせることも目的にしているクリームという感じ。少し塗りすぎるとビーワックスなどに特有の乾拭き時の引っ掛かりとムラが出やすいので、意識的に薄塗りする必要がありそう。

ソールが厚めなのと、まだそれほどすり減っていないということもあり、今のところ多少の雨(土砂降りではなくて)くらいだと靴の内部に水が侵入してくることも無い。
ソールも雨に濡れても削れやすいという印象は無いので、耐久性もあるのかもしれない。(ここはまだ良くわかっていないので、あくまでも「気がする」レベル)

ショーンハイトは見た目や履き心地の方向性は、最初の革靴には最適かもしれない。
よくありがちなEEEやEEEEなどのぽってりとした靴に近い外見は、細い靴を怖がる人にも安心感を与えそうだし、ふわっとした柔かい履き心地は革靴に慣れていない人でも我慢できる範囲にあるような気もする。
ラバーソールなら税込み2万円以下という価格も、2504NAよりも押さえられているし、それでいてスムーズレザーでお手入れの楽しみもある。
靴は試履して買うのが大前提とはいえ、リーガルで言えば2504NAあたりとサイズ感が近いと思うので、返品覚悟の通販で買うならば、あまり外しがないような気もする。

靴が大きく沈み込むというのもなんとなく無さそうなので、次回はボックスキップの既製かオーダーかな。


--------
左足に使っているM.モゥブレイ。
きわめてベーシックなクリームだと思います。
定番なので変わらない良さがある一方で、最近のビーズワックス多めなクリームと比較するとやや艶感にかけるので、これ一本というよりはワックスと組み合わせる人向けかな。



右足に使っているブートブラック。
結構単体で光るので、ワックスで立体的な靴を作りたい人以外にはいいかも。




2016年5月21日土曜日

想い出の靴 - Johnston and Murphy LD17 -

もう20年くらい前の話になるけれど、就職活動を終えて仕事のために買い揃えた靴のひとつ、ジョンストンアンドマーフィーのLD17。


もう履くことは無いと思うのだけれど、この靴もどうしても捨てられなくて手元に残っている。参加しているGoogle+のコミュニティ「靴好きもそうでない人も、革靴について話そう。」でクロケットアンドジョーンズのノーウィッチの話が出ていたので、そういや外羽根キャップトウなんてあったなと、なんとなく思い出して箱のなかから出してみた。


しまう前にいちおうていねいにお手入れしておいたつもりなのでカビが生えるようなことはなかったけれど、表面に少し塩が吹いていたり、シミが出ていたりで、正直最近お手入れ良くしている靴を見慣れているせいか、なんとなくボロい靴に見えてしまった。(まぁ、実際酷使したのでそれなりにダメージがあるのだけれど)

当時はリーガルがジョンストンアンドマーフィーのライセンス生産をしていたので、地方都市で働いていた僕は地元のリーガルシューズで購入。確かレザーソールのこのシリーズはやや高い方のグレードだったような気がする。

簡単にブラシをかけて、軽く油分補給程度のクリームを入れてみると、革の実力なのか意外と簡単に艶が出てきた。
クラックも無いし、大きな傷もないので革の状態はまずまずというところだろうか。


当時は今ほどロングノーズが流行っていなかったので、全体的に丸いデザインをしている。手元の01DRCDと比較してみるとかなり短いし、つま先の造形もラウンドトウという感じ。


左は01DRCD1サイズ24、右はLD17サイズ7。LD17のほうがサイズが大きいのに、全体の長さはやや01DRCDのほうが長い。
それにしてもこうして並べて写真を撮ってみると、20年の歳月を感じないこの艶やかな感じには驚く。(しかも10年以上ほったらかしなのだから)

この靴は社会人1年目に買った靴ということもあり、靴べら使わないで履くことも多く(紐は締め直すくらいはやった)、お手入れの仕方もわからずクリームを塗りたくったりしたこともあって、ややボロが目立つ。
一方で、当時はサイズのことも何もわからず、やや(というか今思えば結構)大きなサイズだったので、その後履くことが殆ど無く、結果としていつまでも捨てるほどダメになることもなく今に至る。

もし僕に息子がいたら履けるようなタイミングになった時にこういう靴を渡したいな。
どうせ履かないのだからダメにしてもらっても結構、というかそのくらい活躍すればこの靴も本望だろうし。

革靴は最初いくらかちゃんとお手入れすれば、かなり長い間良い状態をキープできることもわかった。
この靴は後半10年くらいは履いていないので、履き続けていたらどういう状態かということはわからないけれど、少なくても最初の10年くらいは持ったし、その後10年ほったらかしでも今また履こうと思えば履ける状態にある。革靴ってかなりロングスパンで使える道具なんだなぁとあらためて実感したのでした。

2016年2月7日日曜日

靴クリームの比較 - Boot Black と M. Mowbray -

ブートブラックとブートブラックシルバーラインの比較に次いで、同時並行第二弾を始めてみました。

靴のお手入れ方法なんてもう百年以上も変わることは無いのだろうけれど、情報の発信者が、より広く多くの情報を容易に届けることができるようになった今の時代では、より多くの情報を付加した新商品を開発していかないと競争力が落ちてしてしまうのだから販売者も大変だと思う。

もちろん、科学技術が発達することで今までよりもより良い商品が開発されることもあるだろうし、高付加価値商品を開発することはビジネスとして正当な行為なので、市場が活性化することはいいことだと思う。一方で新商品については売り手と買い手の情報格差があるため、新しい商品の真のメリットはわかりにくい。なんとなくプレミアム感を与えて、かつあまり意識しないで買うことができる数千円という価格設定は絶妙である。

また、あまりにも商品が増えてきて、お手入れに興味が無い人に取っては余計に面倒さが強調され、何をやれば良いのかかえってわかりづらくなっているのもあると思う。

僕は新しいものが出ると使いたくなるミーハーなので、こういう新商品が出てくるとついつい欲しくなってしまう。けれど、新しいクリームを買っても、それを使い続ける靴が無ければ結局は使い道がないし、いまでも数年はクリーム買わなくても大丈夫なくらいあったりもする。
よく言われる「米粒数粒」しかクリームを使わなければ、毎月お手入れしても一足あたり年間で米粒100粒分も減らないわけで、ひと瓶使いきるのはなかなか大変。

そんなあまたに出てくる靴お手入れグッズの中で、定番としてこれから先も残ってほしいなぁと思うものがある。

「M. Mowbray シュークリームジャー」と「Boot Black シュークリーム」

M. Mowbray(以下「モゥブレイ」)はかつての英国王室ご用達であった旧メルトニアンの流れをくみ「欧州の靴クリーム作りの伝統と品質、こだわりを現代に受け継いで」いる定番クリーム。日本のR&D社が旧メルトニアンのレシピを求めて再現させたクリームということで、古くからの靴好き(特に英国靴好き)に人気がある。
永い間使われ続けているということは、それだけ多くの靴に使われ、その経年変化による影響の実績が証明されているわけで、雨後の筍のように出てきた新商品よりはずっと安心感がある。

Boot Black (以下「ブートブラック」)は日本のコロンブスが(恵比寿のリファーレの協力を得て)「その知識と開発力を集結して作り上げた」渾身のクリーム。日本では大量に使われる仕上げ材や長年にわたる製造販売の経験が投入された新商品。職人の知識や技術の蓄積をきっちり均一な製品に仕上げてくるところが日本の製品っぽい。極寒の地でも固まらないとかテレビでやっていた。この製品発売以降、百貨店におけるコロンブスの扱いが変わっている気がする。

どちらも百貨店やネットで購入でき、また国内革靴ブランドでもお手入れ用品として推奨されている。(モゥブレイは山陽山長やRENDOなど、ブートブラックはスコッチグレイン)

「おまえはいつもクレム1925を使っているだろうが!」
という声が聞こえてきそうですが、これはもう独自のポジションを確立しているので100年後も相変わらず存在していると思います、ハイ。


今回は、そんなふたつのクリームを比べてみようかと。

All About の飯野さんの記事によれば、モゥブレイは「やや青み、緑みがかかったダークグレイ」、ブートブラックは「モゥブレイよりは青みの少ないニュートラルかつしっかりとしたダークグレイ」とのこと。実用品としての靴に対するお手入れは「細けぇことはどうでもいいんだよ!」という話もあるけれど、お手入れ好きとしてはこういう違いを見るのが面白かったりするわけです。

ところで、よく雑誌などでは「養分が~」とか「施術が~」とか書かれているけれど、皮革製品になった時点で生き物ではないのでこの比喩にはやや違和感を感じる。(この辺は感覚の問題だけれど、特に施術って言葉はなぜか見ている方が恥ずかしくなってしまう)

なんとなく革(レザー)を人間の肌(スキン)と混同させることで、天然素材・成分が良くて、化学合成されたものが良くないものという印象を与え、高いものを売る理由を作っている気がする。
以前、ある化粧品メーカーの人が言っていたけれど、合成のシャンプーと天然素材のシャンプーで、化学式レベルまで見ていくとそれほど差がないものを作ることはできるし、合成はきちんとその効果と安全性を確かめている。天然素材は科学的に解っていない効用もあるだろうから否定はしないが、盲目的に天然素材というだけでよいと思ってしまう人が多いのは技術者としては残念であると。

そもそも皮が革になる過程を考えれば、顔に塗っても問題ないクリームである必要性がないことはなんとなく想像できる。むしろ革(レザー)肌(スキン)を混同することで、本当に革に必要なモノを与えることができなくなっている可能性だってある。
永い間使われているレシピよりもこれまで靴クリームを手がけていなかったメーカーが「人間のスキンケアに使われている天然素材」を作って作ったクリームが本当に良いのか。靴磨き屋さんが素手で塗りこんでも皮膚に優しいという理由はあるだろうけれど、そもそも僕のような素人には優位点がよくわからない。

給油、給水、補色のバランスと、履かれた状況(暑い寒いや雨に降られたなど)、汚れの除去、保管の状況(風通し、光、温度、湿度)の相互作用が経年変化ではないかと思うし、であればある定点での特定の項目で優劣を論じるよりも、長期戦の比較結果があったら面白いのになと思う。

そこで、まず自分でやってみようということで、最近購入した靴で試してみることに。個人の興味ベースなので一般消費者が気づく程度の目線で。(違いが判るプロがやったら相当面白いだろうなと思いつつ...)

今回使った靴。
ショーンハイトSH111-4(レザーソールモデル)
素材は国産のキップ。購入時点ではあまりクリームが入っていないと思うのでちょうどいいかなと。
靴を買って、初めてクリームを塗る段階から分けてみた。

左足はモゥブレイ
・M.モゥブレイ デリケートクリーム
・M.モゥブレイ シュークリームジャー(ブラック)
・M.モゥブレイ ソールモイスチャライザー
を使う。

右足はブートブラック
・ブートブラック デリケートクリーム
・ブートブラック シュークリーム(ブラック)
・ブートブラック レザーソールコンディショナー
を使った。

デリケートクリームは新品の状態の時に使ってみた程度でふだんは乳化性クリームのみ。またソールはそれぞれのコンディショナーを使って体感的に違いが出るのかを。
ちなみに僕は鈍感なので細かい違いは判らないと思うけれど、それでも気が付くほどの違いがあればやっぱりそれはクリームの特徴なのだろう。


ここからはいつもの購入時のお手入れに近い感じでスタート。
ショーンハイトのこのモデルは仕上げにワックス等は使われていないようなので、タオルにもあまり色が移らない。比べる前提としてはちょうどいい感じ。

まずはデリケートクリームを軽く塗る。
M.モゥブレイのデリケートクリームは独特の香りがする。しばらく使っていなかったけれどなんとなく懐かしい香り。水分が多いこともあり、塗っている途中では表面が濡れるような感じになる。ワンテンポ遅れて浸透していく感じ。
一方のブートブラックは昔のチューブ糊みたいな感じでプルプルとした感じであまり香りはない。比べてみてわかったのだけれど、ブートブラックのデリケートクリームは驚くほど浸透性が高い。塗っている傍から浸透していくので最初は布にクリームがついていないのではないかと一瞬思ったほど。またどこまで塗ったのか判りにくい。でもこれすごいな。


そのあと、左足はモゥブレイ、右足はブートブラックのクリームを入れる。ここでもブートブラックは明らかに浸透が早い。いくらでも入りそうな錯覚を受けるけど、実際に同じくらいの量を使うと、最後に表面に残る皮膜はモゥブレイと同じような感じ。

ちなみに、新品の靴だとクリームがよく入る。今回は薄塗りを繰り返し、いったん革がおなか一杯になるくらいまでクリームを塗っている。塗りすぎの是非はあるにしても、履き始めは多めでも良いのではないかという気分的な問題。ウェルト部分には小さなブラシで少し多めに塗りこんでおく。

クリームの後は豚毛のブラシを軽くかける。ブラシは今回それぞれのクリーム用に2つのブラシを新調した。

最後にソールにそれぞれのコンディショナーを塗る。
新品なのでソールに処理がされていることもありあまりクリームが入らない。一度クロスにとってから強めに塗りつける。
モゥブレイはラノリン主体のクリーム。濃い目のデリケートクリームみたいな。歯磨き粉のジェルのような形状保持するクリーム。勢い余って出過ぎることが多い。一方のブートブラックはオイルに加えて防カビ剤配合など日本の靴箱の状況を踏まえているのかなと思わせるトロッとした乳液。
塗った感じはモゥブレイのソールモイスチャライザーはステインの色を結構落とす。

モウブレイを塗った直後。全体的にステインが落ちる。

ブートブラックもやや落ちるが、モゥブレイ程でもない。

翌日もう一度軽くブラシをかけてから仕上げにクリームをていねいに塗りこむ。
クリームが良く入る部分には気持ち多めに、入らないところはごく薄くと調整しながら全体に塗りこむ。
クリームを塗り終えたら、片足3分くらいのブラッシング。

最後にクロスで片足1分くらい気持ち強めに磨く(1分と書くと短いようだけれど、仕上げと思うと結構な時間)。

ブラシはとりあえずコロンブスのジャーマンブラシ、クロスはモゥブレイにした。(ここまでブランドごとにそろえようとは思わかなったため、同じ種類のものを使っている)

ここまでのプレメンテで思うのは、ブートブラックの浸透性の良さ。
とにかく革にどんどん吸い込まれていく感じは独特。瓶に入っている状態ではモゥブレイより水分が少ない感じなのに、塗り始めるとサラッと表面から吸い込まれていく。伸びるというよりさらさら吸い込まれていく感じ。
それが逆にお手入れの感覚値がない人にとってはクリーム入れすぎにもなりかねない。なんか塗れてない気がしてしまうので。(これが「プロ用」の所以?)

概ね5、6回くらい履いてクリームを2度ほど入れた状態ではブートブラックのほうが素人目に見てもわかるほど光る。

写真右(左足)がモゥブレイ、左(右足)がブートブラック。ブートブラックのほうが明らかに艶がある。色も少し濃くなっている。これはクリームを塗った直後ではなくて、ふつうに1日履いてていねいにブラッシング、乾拭きした後の状態。これが革の個体差によるものなのか、クリームの特性によるものなのかはもう少し続けてみないと確定できないにしても、思ったより早くから傾向が違うことに気づく。

サラッとした仕上がりで、元の素材感そのままに近い状態をキープするモゥブレイに対して、

やや湿り気のあるような仕上がりになるブートブラック。

クリームを拭きとったクロスは左がモゥブレイ、右がブートブラック(靴の写真と逆)。
確かにモゥブレイのほうが少し青みがある。ブートブラックはより暖色系に近い黒というところだろうか。

ソールは左(右足)がブートブラック、右(左足)がモゥブレイ。歩き方の癖もあるので削れ具合に差が出るとしても、全体的にはブートブラックのほうがしっかり浸透しているように見える。ただ、僕はどちらかと言うと左足が軸足なので削れが多いだけかもしれない。
履き始めに一度塗って、その後多少削れた段階で追加で塗った結果、体感的にはブートブラックのほうが滑りやすい。

ブートブラックは浸透力が高い気がするので、メンテナンス回数が少ないうちから色に深みが出やすいのかもしれない。またワックスがそれなりに入っていそう。逆にモゥブレイは昔ながらのレシピだから、それほどワックスが無いか、光らせるための役割を過度に期待しない仕上がりになっているのかもしれない。長期で味を出す可能性もあるので、もうしばらく様子を見ていきたいと思う。

また、いまのところ雨に遭遇していないけれど、これから晴れの日雨の日経験することで差が出るかもしれない。今回は長期レポでいこうと思う。


※ブートブラックが「Artist Palette」という油性クリームの新製品を出している。なんか、このパッケージっておもいっきりパクリに見えてしまう。満を持して発表する新製品に対するジャパン・ブランドとしての矜持はどこにあるのかと。これだけデザインのパクリが問題になるご時世に、どう見てもオリジナルとは言いがたいパッケージングはどうかと。しかも本家の瓶形状より高さが低くて口と瓶の幅比が大きいのでクリーム取りづらいのではないのかな。僕はメイド・イン・ジャパン推しだし、コロンブスの技術は信頼しているけれど、これを海外の人に「某フランス製よりも優れている日本の最高級クリームだ!」と紹介するのはちょっと恥ずかしい。


--------
左足はモゥブレイ。もう定番すぎて何も言うことがありません。今回の比較では艶がおとなしめなのでピカピカ靴が好きな人には向かないかも知れませんが、モゥブレイのもとになった旧メルトニアンは「これ1つですべてOK」という人もいるくらい鉄板です。



右足はブートブラック。日本の技術を集めて作った期待のクリーム。程よく光り、革もしっとりとした感じになるので僕は国産キップ系の靴にはよく使います。



今回ポリッシングコットンとブラシも新調しました。差がわかるように今回のレポで使うブラシはクリームごとに分けています。

2016年1月23日土曜日

Schoenheit SH111-4 Plain Toe Leather Sole

個人的にちょっとホットな東立製靴のオリジナルブランド、ショーンハイト(Schoenheit)。
Google+のコミュニティでも購入報告や気になるひとが続出(してると思うの)です。

ショーンハイトのレザーソールモデル、プレーントウ(SH111-4)。ショーンハイトのスペルは正しくは
O-Umlaut なのだけれど、ウムラウトの英文タイプ表記にならってタイトルは Schoenheit と書いてみました。

ショーンハイトはこのブログを記事で紹介いただいている Life Style Image さんで知りました。
ブリティッシュトラッドタイプのレザーソールでお値段21,600円(8%税込)。

値段から入るのはどうかと思いつつも、これだけのインパクトがあるとどうしてもここに触れたい。
革の調達価格が上がったということでどんどん革靴が値上げされる中、税抜2万円ジャストの革底グッドイヤーウェルテッドというだけで驚き。スムーズレザーを使った2万円台のレザーソールとなると東南アジア製が一部あるくらいで国産ではなかなか見当たらない。よく「革靴は3万円台後半から」みたいな話が言われる(僕もそう思っていた)けれど、そんな定義を覆してしまう。
キャップトウ2足とプレーントウ買って税込65,000円って、シェットランドフォックスの新作ブライトン1
足とほぼ同じ。ラバーソールだともっと低価格。10万円あったら5足くらい買えてしまう。デザイン違い、色違い揃えていきなり一週間のワードローブ完成もそう大きな話でもない。山陽のボックスキップを使った既製モデルで税抜29,000円。

日々多くの靴を生産する過程で蓄積された調達・製造のノウハウをいかんなく発揮してできた靴。工場直販で店舗維持費用がかからないとしても、在庫はある程度(各サイズ1足くらい)確保されているみたいだし、オンラインショップの管理や発送、問い合わせ対応などの人件費は劇的に変わるわけではない。大手ファクトリーとしての材料の調達や繁閑調整、人員の効率的な活用によるところは大きいと思う。

僕は靴をネットで購入することはほとんどない。同じメーカーでもラストが違うと同一サイズでも履き心地は全然違うことがあるし、お店できちんと紐を締めて多少歩いてみて足のどの部分にあたるとか、どの部分が余るなどを把握して買いたいということもある。
ショーンハイトのこのモデルはYahoo!のオンラインショッピングか柏市の本社に行かないと手に入らない。散歩がてらに柏まで足を運ぶということで行ってきました。

東京在住の僕は常磐線で南柏駅まで行き、そこからバス。
南柏駅の西口(栄えていない方?)から流山ぐりーんバスに乗って20分弱くらい。野々下4号公園下車で歩いて数分。このバスは土日30分おきなので行きも帰りもタイミングを合わせないと結構待たされる。後から気づいたけどいまは東京駅からJRで乗り換え無しで柏駅まで行ける。柏駅からバスのほうが東立製靴の近くのバス停(笹原)が使える。

今回は土曜日訪問なので本社はひっそりしていた。販売店舗というわけではないので、予め電話で予約して行くと良いかも。土日は人も少ないし、その中で仕事を進めているのだからこちらもある程度の時間を決めていくほうが良かったなと。僕は朝に何時までやっているかだけを確認して適当に訪問したのでその点反省。

目的はブリティッシュ・トラッドタイプのためし履き。

このラスト、オンラインショップの写真を見るとチャーチの173ラストに似ているなと思っていたけれど、実際にチャーチを意識してラウンドトウを作ってみたとのこと。キャップトウのトウ先あたりは微妙に丸長くボリュームがあるという感じで確かにチャーチっぽさがある。とはいえレースステイの位置や足首周りはより小さめに仕上げられているなど、単なるパクリラストではない。ウェルトの目付けによって受ける印象も結構違う。ちなみにこのラストは東立製靴さんのオリジナル。

全体的なサイズ感としては伝統的なリーガルの靴に近い。シェットランドフォックスのインバネスや最近の01DRCDあたりと比べるとハーフサイズ大きい感覚。
左の01DRCDよりハーフサイズ下げているけれど、全長は同じくらい。
捨て寸がある程度確保されているためか01DRCDよりハーフサイズ下げてもゆとりを感じるけれど、これ以上下げると捨て寸に足が入る感じがした。足長が長い左足は意識するとかかと側が当たっている感じがするので全長はこれ以上下げるのは厳しいと思う。二の甲と三の甲はリーガルトーキョーの旧ジョンストンアンドマーフィー型ラストを少しシェイプした感じ。踵周りはややコンパクトにつくられている。
踵から土踏まずにかけて、やや土踏まずの絞りが踵寄りになっているようにも感じる。(気のせいかも)。踵ぴったりに履いているので前のめりしているわけでもなく、僕の足だともう数ミリ前にある方が気持ちいい。

サイズ表記は2E(EE)。ボールジョイントあたりの幅は少しだけゆとりを持たせて(リーガルの伝統的ラストよりは)高さを抑えているやや平べったい作り。キャップトウを試しに履いてみたところ、01DRCDよりハーフダウンしても気持ちゆるい感じがして、沈み込むと羽根が完全に閉じそうな気がした。外羽根プレーントウだと羽根が少し外側に付いているのか、かなりきつく締めても閉じることが無く、1cmくらい開いている。相当沈み込んでも閉じきることはなさそう。幅ふつうで薄めの足である僕には外羽根のほうがフィット感が良い感じ。履き口もやや小さめということも相まって踵と三の甲あたりで締めて、前半部分は縦横ともにゆったりとしている。最近キツ目の靴を履いているせいか、足入れした瞬間は緩い感じを受けたけれど、超時間履いていても緩さは感じられず、むしろあまり靴を意識しない自然な履き心地。緩くもなく、タイトでもなく当たる部分もあまりない靴。全体としては親指側にトウが振られていることも楽な履き心地につながっているのかもしれない。

今回はトライしていないけれど、ロングノーズモデルはややボールジョイント部分に幅をもたせているようなので、僕にとってはフィット感が弱くなるかもしれない。

2日間でトータル30時間くらい、うち1日は結構歩いた後の感覚としては、新品の靴なのに痛い部分が無いに等しい。結構歩くので甲を意識的にキツ目に結んでいても、いつも痛くなる骨が出ている部分のダメージがあまり無い。また、左の小指や薬指も当たる感じが無い。踵は食いつくような感じが無いと思うけれど、擦れもせず歩くたびにきちんと付いてくる。
細かいことを言えば、左足の外側ボールジョイントから踵に向けてのあたりが少し当たっている。ということはこの部分は必ずしも大きくないのかもしれない。
多くの靴が足をガシッと包むような履き心地なのに対して、ふわっとした感じさえしてくる。

素材は「国内タンナー産高級キップ」とされている。
ショーンハイトのオーダーで使われているキップは山陽のグレージング仕上げのキップとされているけれど、こちらはそれとは別っぽい。
初見では表面上にポツポツとした感じで全体的にはサラッとしたフラットな印象。黒々とした黒というよりは表面の凹凸によってやや銀色的な光り方をする。艶はそれほどでもなく、しわはキップらしいやや大味なものが入る。プレーントウ自体がのっぺりしていることもあり、つま先にはワックス入れて黒を強調し、立体的にしたほうが格好良いかも。

ソールはやや厚め。靴のデザインもあり、全体として少しぽってりとした靴に見える。ソールが厚いからなのか、コルクが詰まっているからなのか、底がしっかりしている感じがして路面の凹凸に対して足にやさしく、履き始めにしては想像以上に反りが良い。

靴そのもののつくりは至ってベーシック。靴を作るための基本を集めて作ったような靴。
ウェルト周りはきれいに仕上げられているし、レザーソール部分がステイン仕上げがされていたりちょっとしたこだわりが感じられる。この靴の立ち位置なら無くても十分なのではないかと思うけど、「ショーンハイト」であるが故かな。
仕上げはふつう。必要以上のコストを掛けずに手の届きやすい価格を実現するというのも経営手腕の見せ所。品質を担保するギリギリのところにしているようにも見えてこれは僕としてはありがたい。

手持ちのクリーム比較として、今回左足を M. Mowbray シュークリームジャー、右足をBoot Black(黒蓋)シュークリームで塗り分けてみた。ソールも左足はモゥブレイ、右足はブートブラックのものを使っている。
購入時点でお湯で固く絞ったタオルを使ってみたけれど、色がほとんど落ちない。仕上げはあまりされていないと思う。どうせ好きなクリーム塗るのだからこれで十分。
初回はクリームが良く入る。薄塗り3回繰り返して磨いてみた段階ではそれほどツヤツヤに光る感じでもなく、最初の状態と変わらない気がする。最初はそんなもんかな。このへんの細かい比較については改めて。

日本にはいい靴を作るファクトリーがたくさんあるし、実際にいい靴もたくさん売られている。
いわゆる本格靴という市場は国内全体ではまだそれほど大きくなくて、その市場では主に欧米製の人気が高い。
国産靴は垢抜けないイメージを持たれることがあったけれど、市場の成熟とともに創り手も切磋琢磨されるわけで、高級靴ブームがあったおかげで日本製の良さを活かした洗練された靴が増えてきたように思う。

欧米の靴に人気があるひとつの理由は、ジェームズ・ボンドがチャーチからクロケットアンドジョーンズになったことが話題になったり、オバマ大統領が初登庁にコールハーンを履いたことでアレン・エドモンズが「USA製ですら無いコールハーンで初登庁なんてがっかりだ」とコメント出したりとブランドにストーリーがあるということもある。トリッカーズなんて世界レベルの洒落者ともいえるチャールズ皇太子のワラントだからこれまたストーリーになる。

日本人はもともと日本製が好き。なにもジョン・ロブやベルルッティと真っ向勝負では無くても、天気を必要以上に気にしないで済むビジネスの心強い道具としての立ち位置ならこつこつと真面目に作られる日本製に分があると思う。形を真似てもブランドのストーリーは手に入らないのだから、もっと気軽に履ける正統な靴っていいなと。長く使えるしっかりとしたものづくりという点では国産って素晴らしいと思うのです。

ショーンハイトはベーシックな形、まっとうな素材ときちんとした作り、修理対応の安心感などふつうのサラリーマンにとってありがたい要素がたくさんある。
残念なのはためし履きをしての入手が困難なこと。国産靴の多くはいつもこれに直面してしまう。ペルフェットしかり、RENDOしかり、大塚のM-5しかり。通販主体の場合はサイズ選びと交換の手続きが面倒だなと二の足を踏んでしまうし、交換コスト(手間と金額)が気になってしまう。
靴って、一度フィッティングがわかれば次からは同ラストを通販で買うこともできる。でも、その一度目に到達するまでが大変。

ショーンハイトの最大のデメリットはここにある。ホームページを見ると三越で試着できそうな雰囲気だけれど、実際には置いていない。(僕は日本橋と銀座の三越に試着したくて行ったけれど、扱っていなかった。ホームページが紛らわしい。)
百貨店に卸したりするといろいろ制約があったり、この価格では提供できないなどの事情があるかもしれない。
スコッチグレインのオデッサやライトカーフあたりと比べてどうかという情報があったら結構通販でも売れそう。リーガルとの比較は流石に問題が出そうにしても、それ以外のブランドなら出してしまっても良さそうだけれど、そういうのは業界的にダメなのかな。

柏の本社で履いてみれば一発解決。大手町あたりからだと乗り換え入れて本社まで1時間30分弱。往復3時間を遠いとみるか近いとみるか。
僕は遠足のつもりで実際に行ってみた。あえて靴購入だけを目的としてしまうと往復交通費と時間が上乗せさせるので交換前提の通販のほうが気楽だけれど、都内の人だったらなんとか行ける距離かなと。
店舗とは違うので応対は朴訥な感じを受けたけれど、とても感じが良く時間があれば次回も訪問して買いたいと思う。

すべての革靴が高級靴を目指すのではなくて、必要十分なビジネスパーソンのためのオーソドックスな靴があってもいい。ショーンハイトのこの靴はそのど真ん中にあるように思える。
でも、東立製靴さんの目指すところの主力は素材、作りにもう少しこだわったパターンオーダーのドレスかな。

しばらく履いて特に大きな問題がなければオーダーもしてみたいな。普段履きからオーダーによるドレスまで懐深いショーンハイトは今後の注目株かと。


--------

クリームは右左で塗り分けています。左足はM.モゥブレイ。



右足はブートブラック。デリケートクリームを使うのは最初だけ。後は水拭きしてから乳化性クリームのみ。



ブラシもクリーム塗り分けのために新調しました。


2016年1月18日月曜日

靴クリームの比較 - Boot Black と Boot Black Silver Line 2回目 -

Boot Black(黒蓋)と Boot Black Silver Line の比較をはじめて1ヶ月。
この間登板は3回ほど。
改めてクリームを塗りなおしてみた。

磨いたあとに比べてみると、あまり違いがわからない。
シルバーラインの仕上がり。

ブートブラックの仕上がり。

1ヶ月くらいでは差がでないのか、そもそも差が無いのかはこの時点ではよくわからなかったが、今回敢えて差がでるかなと思ってほんの少しだけつま先にワックスかけてみたら意外な違いがあることに気がついた。(後述)

塗っている感じは結構違いがある。瓶に入っている状態だとクリームそのものはシルバーラインのほうが固めな印象を受けるが、塗っている感じでは意外と水っぽいクリーム。
ブートブラックは塗った直後から革に入り込むような感じがするのに対して、シルバーラインは一度表面に留まってから吸い込まれていくような違いがある。

正直、その後磨いている時もあまり違いを感じなかったので、細かく光を当てたりしないかぎりはその差に気づくことはなさそう。

ただ、意識して見てみると、シルバーラインのほうが角のある光り方をしている。
この光かたの傾向からすると、ブートブラックはスムーズレザー向けでワックス仕上げを前提にしている仕上がり。ハイシャインベース、ハイシャインコートを使うことを前提に、クリームの段階では控えめして、油性クリームの乗りを良くしているような感じ。
一方のシルバーラインはクリーム単体で完結することも想定して、クリームにややワックス成分を多めに入れている可能性がありそう。ガラス仕上げの靴からスムーズレザーまでお手入れの時間をかけずにそこそこきれいにしたいというニーズに合いそう。

また、今回は少しだけ缶入りワックスを入れてみた。
ワックスはプロ向きと言われているブートブラックのほうがあまり時間をかけずに光る。

ワックスを仕上げるために磨いた布を見ると、明確に方向性が違うことが解る。
左がシルバーラインで右がブートブラック。

シルバーラインは結構青みが強いグレー、ブートブラックやや青みを感じるものの黒いという感じ。
また、シルバーラインのほうが布に色が付着しやすい。
僕の技術的な部分があるので、絶対的な差だと断定するのは少し早いかなとも思いつつ、意外と違ったなというのがいまのところの感想。

数日間履いてみたところ、ブートブラックのほうが少し潤いのある感覚が持続する。
ただこれもそれまでの革の状態によるのかもしれない。

1ヶ月で結論を出すのは早いので、もう少し様子を見ていきたいと思う。


--------
ブートブラックはしっとりとした仕上がり。



あまり時間をかけないでクリームのみでお手入れをするのであればシルバーラインのほうがいいかも。今回はワックスも使ってみました。

2016年1月10日日曜日

SHETLANDFOX 3054SF ABERDEEN

シェットランドフォックスのラスト(木型)の中でも、わかりやすいロングノーズのアバディーン。

この手のロングノーズは好き嫌いが大きく分かれて、どちらかというと靴好きといわれる人にはあまり人気が無いようにも思える。ラウンドトウが正統派みたいな。
僕自身も、どちらかといえば古典的なラウンドトウのほうが好きだし、履いた姿はインバネスのようなちょっと長いラウンドトウがバランスが良いと思っている。

ロングノーズ度合いはシェットランドフォックス最高。

比較的長いと思われているグラスゴーより遙かに長い。最近出たこれまたロングのブライトンよりも気持ち長い。おまけにちょっとだけつま先が反っている。
長くて反っているのだけれど、僕のサイズが小さい(サイズ6)ためか見慣れたせいか、履いてみるとロングはロングなのだけれど巷にあるピエロ靴のような印象は受けない。
他の人が履いているのを見ても、目立つほどロングに見えない不思議な靴。

ま、周りにそれ以上のトンガリ靴が多いため感覚が麻痺しているのかもしれない。
このデザインでスワールトウにしたら巷のトンガリ靴のボカルー版ができそうだ。
実際履いていると無意識につま先を傷つけることがある。思ったより先まで靴があるので。

古典的なラウンドトウからみるとかなりアグレッシブな印象を受ける異端児だと思っていたら、エドワードグリーンも創業記念ラストとしてシャープなロングノーズモデルを出してきた。シェットランドフォックス(リーガル)が言うには「ブリティッシュスタイル」とのこと。格好よく履きこなすのは難しいけれど、これはこれで一つの答えなのかもしれない。

シェットランドフォックスの中ではタイトなラスト。
幅はそれほど絞っている感じは受けないものの、甲の低さは際立っている。特にボールジョイント周りの低さが特徴的で、購入当初はフロントタイト、リア(かかと)標準という感じだった。最近のシェットランドフォックスは甲低め、踵小さめがトレンドか。
甲が低いため、幅はともかく薄い足に合う。ボールジョイントの幅からすると細い足と言うよりは薄い足のほうがフィットする。細い場合でも捨て寸が多めの靴のため、サイズをハーフ下げることでフィットするかもしれない。

素材はもうこのクラスの定番の一つ、仏アノネイ社のボカルー。
購入当時(2013年)は公式通販サイトで「ボカルー」と明示されていたし、オフィシャルブログでも「フランスアノネイ社のカーフ」と書かれていたが、いまは公式通販サイトでの説明も単に「牛革」とものすごく大雑把な表記になっている。ひょっとすると調達先が変わっている可能性があるかもしれない。僕は最近では正直どこの革であってもメーカー(リーガル)が一定のクオリティを担保してくれていればいいかなという感覚なのだけれど、使用している革も品質の保証のひとつなのだから公開してくれてもいいのになと思う。
シェットランドフォックスで使われているボカルーは質のばらつきが多いような気がしているけれど、今回の個体はそこそこ良く光る。ただ、相変わらず硬めな感じ。

細かいミシンステッチ、ソールのステイン仕上げはクオリティが高い。ウェルトの糸も隠れているし極めて繊細な印象の靴。このVフロントもキャップトウも冠婚など華やかな式典に似合いそう。いわゆる最近の結婚式場でレンタルされる細身のブライダル用タキシード(ふつうのタキシードではない結婚式用のもの)に合わせるとかなり決まりそう。逆にモーニングなどやや格式を上げたスタイルならケンジントンIIのほうが合いそう。(※受ける印象には個人差があります)

余談になるけれど、この印象を確かめるために新郎の衣装で検索してみたところ、靴に関してはめちゃくちゃなものが多かった。ウィングチップがプレーントウよりフォーマルと書かれていたり、そもそもタキシードとブライダル用のタキシード、フロックコートの区別がついていなかったりと。「タキシードにはエナメル靴」はパーティ用の装いで、結婚式で新郎が着るブライダル用のタキシードはモーニングの略式と考えるべきなので、新郎の足元はやっぱりエナメルではないスムーズレザーのキャップトウが正解といえるのではないかな。


クリームは購入当初からサフィールノワールクレム1925を使っている。
この靴は登板頻度が少ないため、クリームを塗るのは数ヶ月に一度くらいで、ふだんはブラッシングくらいしかしていない。これまで大雨に降られたことがない(小雨程度は結構ある)ので、他の靴に比べるとあまりクリームを塗る必要がないということもある。
小雨とはいえ、雨に振られるとボカルー特有の情けない感じにふやけるが、乾かしてブラッシングすればほとんど元通り。その時に使うブラシはクリームを塗りこんだ後になじませるために使っているブラシなので、多少のクリーム効果はあるかもしれない。

しわも結構細かく入っている。

全体的に銀が浮きそうなしわの入り方が気になるところだけれど、これはクリームの艶感によるところかもしれない。
リーガルのボカルーはロットによるばらつきが大きい気がする。今回の3054SFはかなりみずみずしい艶が出るが、少し後に購入した3055SFは磨いてもあまり光らない。

ラストは少し足に合っていないのか、履き口の内側が少し変形してしまう。
同じラストの内羽根モデルである3055SFではこういうことが無いので、外羽根の作りこみによるものなのかな。フィット感は内羽根より少し劣る。

アバディーンは踵の造形が今ひとつな気もする。踵の底面から履き口にかけて直線的なため、踵を掴む感じが弱い。

踵のこだわりがあるRENDO 7702とくらべてみると一目瞭然。

底面をコンパクトにしても上面が開き気味な印象を受けるアバディーンに対して、RENDO 7702は上面に向けてグラマラスな曲線を描いており、いかにも踵を掴みそう。
RENDOのラストは一般的な既成靴よりワンサイズ踵が小さいとされているけれど、底面はむしろアバディーンより大きめに見える。その上で上面に向かって絞り込む作り。

ちなみに、ペルフェットのパラティーノもやっぱり曲線気味だった。

横から見てもRENDOのほうが曲線を活かしている。左側がアバディーン。

この写真をとってから、自分の足をよく眺めてみたら、やっぱりRENDOのような曲線のほうが(少なくとも僕の)足の形に近い気がする。

このあたり、せっかく踵を小さめに設計してもいまいちその効果が出ている感じがしない理由ではないだろうか。ただ全体的に小さくすればフィット感が上がるわけではない。シェットランドフォックスの公式ブログによると、2015SSモデルとして販売開始されたウイングチップモデルでは踵周りのフィット感が向上しているとか。とはいえリーガルは百貨店などでも販売することを想定して、敢えてあまり攻めた踵にしていない可能性もありそうだ。

内羽根モデル同様に、前半部分はとてもタイト感の感じる靴。
紐をキツ目にしても羽根が閉じることが無いので、この靴はコルクがだいぶ沈み込んでも閉じきることは無さそう。
ただ、内羽根よりも長時間履いた時の左足の感覚が違う。内羽根キャップトウでは一日の終りには左足薬指に違和感を感じることが多いのだけれど、このVフロントはそれが無い。

3055SFの時も同じ印象を受けたように、この靴は履き始めからタコやマメができることがなかった。
僕はたいてい履き始めは左足小指にできることが多い。最もダメージが大きかったRENDO 7702の時は綺麗になるまで半年以上かかった。また、踵の外側には大きめなものが残っていて、もう治る気配が無い。
このことから僕にとって靴の合う、合わないの観点は左足の小指がどうなるかと、両足の踵外側がフィットするかが重要になっている。アバディーンはその点が合っているのだと思う。もしかするとすぼめ過ぎない踵のデザインが足に優しかったりして。

一方でこれまでの靴ではあまり受けたことがない親指に革が当たる(刺さる)というダメージを履き始めに受けた。よく親指に絆創膏という話の理由がわかった。甲が緩いとなるのだろうと漠然と思っていたけれど、むしろタイトなフィッティングだと購入当初のしわの入り方によってはあり得るなと。キャップトウだとキャップがあるので指にはあまり来ないけれど、プレーントウ系だと起こりやすいかも。
よく最初にボールペンなどを使ってしわの位置を調整する人がいる理由もなんとなく解る。(僕は自然にできるしわこそ靴の縫い糸に負担が無いと思って室内履きで自然にしわを入れるタイプ)

この手の長い靴は好き嫌いがはっきり分かれる。
どちらかと言うと強烈に好きという人はあまりいなくて、絶対に履かないという人はワリといそう。僕も従来はなんとなく避けていたタイプのデザインだし、いまでもラウンドのほうが好きで、セミオーダーするならラウンドタイプの内羽根キャップトウか外羽根プレーントウがいいなと思う。
そんな僕が結局外羽根Vフロント(3054SF)、内羽根キャップトウ(3055SF)とふたつ買ってしまっているのは、タイトに履ける靴でありながらタコにならない気持ちよさ、履いてみたら意外とふつうな気がするデザイン、購入当時はボカルーの質感がわりと好きだったということにある。
靴って一日中履いているものだからやっぱり履いていて意識をしないか、気持ちいい感じがするようなものがいい。


シェットランドフォックスは「ミリ単位で修正を加えながら完成させた木型」を短期で廃盤にすることが多い。木型(ラスト)って資産だと思うのだけれど、こうすぐに廃盤になることを振り返ると、この文言も軽く見えてしまう。開発にコストを掛けた大切な木型なら償却するまでは素材の調達先変えてもモデル継続するほうが財務上良さそうに思える。顧客の立場からしても、例えばペルフェットとか三陽山長ってレザーの調達先変えてもモデル継続なので革の好みと馴染みに差はあれど、リピートできる安心感がある(ペルフェットは最近ちょっと違ってきている感じがするけど)。

逆に継続販売が無いかもしれないという不安感を煽ることで数多く買わせようというマーケティングもありかもしれない。ただ、これを繰り返していたら結局流行に乗るだけの軽いブランドになってしまう。良く言えばお客様の声を拾って改良を続けているといえるけれど、一方でいつまでも半完成品のようなものをその場の思いつきで出してくるようにも見える。流行を追い続けて商品開発をすることが主流の会社が故なのか、シェットランドフォックスはこういう売り切り型の雰囲気がしつつある。少なくても男性向けドレス・ビジネスシューズで5万円以上の靴を売るブランドって、10年以上(というか、開発時点では永遠に)販売するつもりの気合の入った製品を作るところが評価されているのではないだろうか。2235NAなんてデザインが今風でなくても、ラストが最近の若い人に合わなくても、定番として販売され続けていることがリーガルの底力を担保している。その場限りの商品はそれはそれで必要だとしても、100年前からあるようなデザインの定番モデルについては流行がどうなろうが素材の調達先が変わろうが、とにかくいつまでもあり続けるような安心感が欲しい。
リーガルによれば、過去モデルの木型はすべて修理用に保管している(リウェルト前提の修理だから全サイズあると思われる)ということだから、廃盤するくらいならリピータ向けパターンオーダー専用にして販売継続すればよいのにな。履き心地が気に入っている人にとってはものすごくありがたい。
ケンジントンなんて捻れラストによる履き心地の良さがひとつの売りだったし、事実僕のようにケンジントンがものすごく気に入っている人もいる。「ケンジントン(国産キップモデル)」「ブリストル(国産キップモデル)」とか買えるのであれば10年後あたりに買いたい。

アバディーンは素材が比較的安定供給されそうなボカルーなので当面は継続するかな。僕はもうこのモデルは打ち止めするつもりだけれど、それこそ10年後、セミブローグが欲しくなるかもしれない。そんなとき手に入れることできるかな。

--------
クリームは定番のサフィールノワールクレム1925を使っています。




ときどきレノベイタークリームで保湿しています。