2013年5月17日金曜日

BootBlack

革靴のクリームと言ったらサフィールやM.モゥブレイあたりが有名ドコロで、靴のお手入れが半ば趣味みたいな人ならば誰もが持っているだろうけれど、わが日本でもこれらに負けない(と思う)靴クリームがある。日本の靴ケア商品の最大手であるコロンブスが販売しているBoot Blackだ。


コロンブスというと、どうもチューブ入りの靴クリームや、アンメルツヨコヨコの容器みたいなものに入っている水っぽいケアグッズなど、どちらかと言うと本格的な革靴のメンテナンスというよりは、単に靴を光らせるだけのものという印象が強くて、これまでは縁がなかった。レザリアンシリーズなど普通の靴クリームもあったのだけれど、はっきり言ってコルドヌリ・アングレーズやモゥブレイと比べて、あえて買うほどのものでもなかった。


ベビーブーマーが就職する前後から、いわゆる高級靴ブームが一部の間に出てきて、革靴の素材に注目が集まるにつれ、そのメンテナンスも脚光を浴びるようになった。そこで満を持しての登場である。


ちなみにこれまた日本のメーカーであるリーガルブランドのケアグッズの多くもコロンブスが提供しているが、高級ラインのクリームはサフィールだったし、リーガルトーキョーではコルドヌリ・アングレーズが売られていた。ちなみに現在リーガルトーキョーに置かれているクリームはサフィールノワールとシェットランドフォックスのクリームで、後者はコロンブス製である。やっと日本のメーカーで靴とクリームを揃えることができるようになった。

(ま、日本の革靴市場が成熟していなったというのもあるけれど、職人気質のあるメーカーだったらニュートラルとブラックだけでも良いので高級靴にも使えるクリームを前々から用意しておいて欲しかったな。)


ふだんのメンテナンスにはモゥブレイのデリケートクリーム、それにコルドヌリ・アングレーズのビーズワックス、かなり稀にモゥブレイのステインリムーバーでやっているのだけれど、せっかく日本のメーカーが本格的なメンテナンスグッズを出したのだから買ってみようということで購入した。

Boot Blackには「プロ向け」のBoot Blackシリーズ(黒い蓋のほう、以下ブートブラック)と、「中級者向け」のブートブラックシルバーライン(銀色の蓋、以下シルバーライン)がある。今回はどちらが良いのかわからないので両方買っちゃいました。
靴磨きに関して私はプロではないので、まぁシルバーラインで十分なのだろうが、なんとなくコロンブスだけにディフュージョンラインは「とにかく艶を出さないと」的な商品になってそうな予感がする。



外観

ブートブラックはシールで、シルバーラインは瓶に直接印字されている。印字のほうが良さげなのだが...
大きさとしてはM.モゥブレイのクリームの瓶を一回り大きくした感じ。



クリームの感じ

ブートブラックのほうがウエット。どちらも蓋ギリギリまで充填されている。買ってきた時瓶が傾いてもクリームが偏ることが無いので良いかも。でもその程度のメリット。



シルバーラインは乳化性クリームの割りには固めな印象。果たして伸びはどんな感じか。





香り

致命的に悪いと思う、どちらも。
いかにも灯油っぽい臭いがする。サフィールあたりはクリームそのものの香りも良くて、それが一種のアクセントになっているけれど、ブートブラックもシルバーラインもこの点はまるでダメ。ケアが楽しくなくなる。プロは香りなんてこだわらないのかもしれないが、シルバーラインのターゲットである人たちはこれで満足するのかな。
サフィールはなぜあんなに良い香りなのだろう。この差はなんなんだ?


で、この2つのラインにどれほどの違いがあるのか、実際に確かめてみた。


今回比較に使う靴は、これまた日本のリーガルが販売するプレーントウのW134。
リーガルブランドのBTOのラストを使ったモデルで、アッパー素材はキップ。生後6ヶ月から2年くらいの革で、カーフ程ではないがそこそこキメが細かい革と言われている。
アネノイのボカルーあたりと比べてみると締りのない感じがあるけれど、比較的シミになりにくいし、革も厚めなのでデイリーユースには十分ありだと思う。


比較をするにあたって、まずモゥブレイのステインリムーバーで古いクリームを落とす。この靴は最近はサフィールクレム1925のニュートラルで磨いているので、いつもよりていねいめにリムーバーをかけてみた。

ちなみに、ステインリムーバーはあまり使わないほうが良いという意見もあり、個人的にもそう思う。ふだんは固く絞った綿布で表面を拭ったり、汚れや塩吹きがひどい場合は濡れたティッシュを貼り付けて汚れをとっているので。(濡れティッシュによるメンテナンスを始めてから、ステインリムーバーやサドルソープの出番がほとんど無くなった。これについては後日書いてみたいと思う)

前処理として、ふだんはM.モウブレイのデリケートクリームを薄く塗るのだけれど、今回はBoot Blackの素の実力だめしということでいきなりクリームを塗ることにする。

※この方法は色が薄い革だとシミになりやすいかもしれない。


クリームは布に取り、出来る限りうすーく塗り伸ばした。
クリームの量が結果の差にならないように、出来る限り同じ量を入れるように注意した。よく言われる米粒単位で数えて4から5粒程度の量を塗りこんだ。デリケートクリームを塗っていないためふだんよりちょっと多め。

塗り終わって15分くらい放置して、それからひたすら乾拭き。
ブラシを使うと他のクリームが移ってしまい、違いがわからなくなりそうだったので、今回はていねいに乾拭きをした。

コルドヌリ・アングレーズのクリームはしばらくおいてから乾拭きをすると、なんとなく引っかかるような感じを受けるけれど、Boot Blackはどちらのラインもそういうことがない。ワックスに含まれる蜜蝋の違いだろうか。


結果


右足(向かって左)がブートブラック、左足がシルバーライン。

一度だけしか塗っていないのであまり差がわからない...
しばらく使い続けると差が出るのだろうか?

強いて違いをあげるならば、写真ではわかりにくいがブートブラックのほうが光に当てた時白くなる部分が明らかに広い。最初は同じ靴でも革の違いが出ているのかなと思ったのだけれど、あちこちの部分でみてみると、全てブートブラックのほうが光の帯の幅が広かった。一方シルバーラインは光がまとまるというか、幅は細くても反射の最大値は高い傾向がある。何度も磨いて同じような状況にしていると考えられるので、思うに、ブートブラックのほうが多少ウェットな仕上がりをしているのだと思う。プロが磨いたら大きな違いがわかるのだろうか。

つま先を拡大するとこんな感じ


ネットの書き込みをみるとブートブラックシリーズは艶がキツメに出るというものが多いけれど、まぁ、確かにそんな感じがする。
サフィールノワールはしっとり鈍く光ることに比べると、特にシルバーラインはピカピカした感じに仕上る。

今回はあまりキメの細かい革ではなかったので、この反射感がかえってビニールっぽさと言うか、なんとなく安物っぽい方向に出てしまっている。まだ1回目なのと、磨いた直後ということもあり、しばらく様子を見ると変わるのかもしれない。

私自身は靴磨きは全然プロでもないし、上手い方でも無いと思う。ただ、これまでずっとコルドヌリ・アングレーズを使ってきてその質感に慣れているので、どちらかと言うと瓶を開けた時の見た目としてはブートブラックのほうが違和感が無い。

ということで、価格差も数百円なので自分で使うならブートブラックとなる。どこでも売っているというわけではないが、ちょっと高級な靴を扱う百貨店の靴売り場でふつうに売っている。(私は出張先のそごうで買った)

なんといっても残念なのはあの灯油のような臭い。靴磨きがどうしても作業のような感じになってしまう。素材を突き詰めていってあの臭いになってしまうのであれば、変な香料を入れるよりもマシな部分もあるのだろうけれど、せめてシルバーラインは一般向けなのだからもう少し何とかならなかったのだろうか。

ひとつのクリームを塗り重ねることで靴を育てていくというポリシーがある人にはわざわざ乗り換えを薦めるほどのものでも無いというのが正直な感想だけれど、日本の環境に合わせて日本で作ったクリームと言うことらしいので、しばらく使い続けて様子をみてみようと思う。



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ブートブラックは百貨店などでも売られているので比較的購入しやすい。乳化性の中でも水分が多い気がするので、これ一本でふだんのお手入れは十分かも。


こちらはシルバーライン。

2013年5月11日土曜日

Shoe*

革靴って奥が深い。

靴のいちばんの目的は「足を守る」こと。

人間以外は靴を履かない。

それは産まれた時から素足で生活しているからで、もし人間も靴を履かないまま生活していたら多分裸足でも歩行にあまり支障がなかったのかもしれない。

でも私たちは小さい頃から靴を履いて育ったし、いま私たちが生活している環境で素足で歩くのは現実的ではない。ダイ・ハードのブルース・ウィリス扮するジョン・マクレーンは素足であったためにガラスの破片で怪我をしてピンチになる。靴を履くということはひとつの常識となっている。

いまは靴にもう一つの目的がある。「ファッション」だ。

「おしゃれは足元から」という言葉があるように、その人のファッションに関する傾向は靴を見ればわかる。伝統的なのか、モード寄りなのか、リラックス志向なのか、それとも無頓着なのか。雨の日でも気にせずレザーソールの人もいれば、天候によって細かく靴を分ける人もいる。

特にスーツスタイルの男性は靴ですべてが決まると言ってもいいと思う。同じスーツを着ていても靴が異なれば印象はガラッと変わるし、安いスーツであっても靴がまともであれば全体の高級感をグッと上げる。

身に着けているものの総面積からするとほんの小さな部分であるけれど、大きな影響力を持つ。それが革靴だと思う。

私が初めてまともな革靴を買ったのはもう20年近く前で、当時リーガルシューズで販売していたジョンストンアンドマーフィーのストレートチップとモンクストラップだった。社会人になって自分のお金で始めて購入した靴だ。社会人一年生からすればものすごい高級靴だったし、それはもう大切に履いていた。

当時は革靴のお手入れに関しての知識も経験もなかったので、雑誌やムックに書いてあることを参考に、いま思えばかなり過剰にメンテナンスをしていた。履くたびにブラシを掛けて、チューブ入りのクリームを使い、これまたチューブ入りのクリームを大量に塗り、一生懸命に磨いていた。

そうこうしているうちにだんだんと靴磨きの経験値も上がってきて、またインターネットでいろいろな靴磨きノウハウも知ることができて、革靴のお手入れもひと通り出来るようになった。革靴のお手入れというのは、面倒である一方で楽しくもあり、きれいに仕上がった時の感動もある。

靴がその人を表すといえるのは、こうしたお手入れを通じて靴が完成していくからなのだと思う。買ったばかりの靴よりも、ていねいにお手入れをされ続けてしばらくたった靴のほうがはるかに魅力的だ。

革靴は成長する。

それは放っておいて勝手に成長するのではなく、手間暇かけて大切に扱うことで、その期待に応えてくれる形で成長する。だから革靴というのは面白い。
お金さえあればいくらでも高級な靴を買うことはできる。でもその靴を成長させるには時間と愛情が必要だ。

だから革靴は奥が深い。

ここまで書いていた時間で、きょうの雨でずぶ濡れになった靴のファーストケアが終わる。さてこれからクリーナー片手にきょうのお手入れを始めるとしよう。